秘密の地図を描こう
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あの三人を率いて、ネオはアークエンジェルの護衛に当たっていた。
「……甘い、と言っていいのか、この処置は」
キラ達のことが気に入っているとはいえ、彼らはネオの命令があれば即座に銃口を向けるだろう。それなのに、バラなら似せず一カ所に集めているとは、とため息をつく。
これならば、いつでも目の前の艦を占拠できる自信がある。
もっとも、それを実行に移すかどうかは別問題だが。
「今更、意味はないしな」
それに、この艦は妙に居心地がいい。あの三人も差別されることなく普通に接してもらっている。
「命令じゃなく、自分達から『戦闘に出る』というとは思わなかったな」
それも、自分ではない他の者達を『守る』ために、だ。
「あいつらも成長している、ってことか」
それも、ここの環境があってのことだろ。同時に、ここ以上の環境があるとは思えない。
「まぁ、理由としてはそれで十分だな」
そういうと同時に、ビームライフルの照準をかつての味方にあわせる。
もっとも、と少しだけ唇の端を持ち上げながら呟く。あちらが自分達を《味方》と思っていたかどうかは謎だ。
少なくとも、ジプリールをはじめとする連中はただの《便利な道具》扱いだったと思う。
「道具が人間になった。それだけのことだ」
そういえば、そんな昔話があったな……と引き金を引きながら呟く。
あれは、木で作られた人形だったような気がする。それが妖精の魔法で人間になったのだったか。
どちらにしろ、ステラが好きそうな話だ。
後で調べて読んでやろうか。
「もっとも、俺が生き残っていたなら、だな」
何か、ものすごくやばそうだ。
まっすぐに近づいてくる艦の手法を見つめながら、心の中で呟く。
「でも、逃げるわけにはいかないな」
男として、と続ける。
自分がここで逃げ出せば、アークエンジェルが撃沈されるだろう。そうなれば、自分達は帰るべき船を失う。
自分はともかく、あの三人には致命的だ。
だから、自分がここで踏ん張るしかない。
「後は、モルゲンレーテの技術に期待だな」
この機体につけられている防御系のシステム。それが主砲のビームに耐えられるかどうか。運を天に任せるしかない。
『ネオ!』
状況に気づいたのだろう。ステラが呼びかけてくる。
「大丈夫だ。お前たちはそのままそこでアークエンジェルを守ってろ!」
即座にそう言い返す。
「お前たちの機体より、こいつの方が防御力は上だ」
それに、とネオは無意識に言葉を重ねる。
「俺は、不可能を可能にする男、だからな」
その瞬間だ。以前も同じようなことがあったような気がする。
『ムウ!』
マリューの悲壮な声が耳に届く。
あのときも、そうだった。
そして、自分は何と答えたのだっただろうか。
それは自分の記憶ではない。そう言いたいのに、できない。
いや、間違いなくそれも自分の記憶だ。それも、不当に奪われた。
そこまでして、自分達の自由になる《人形》が欲しかったのか。
しかし、と心の中で呟く。これで、あの日の約束をようやく果たすことができる。
だから、何が何でも絶対生きて返らなければいけない。
「いろいろと聞きたいことも話したいこともあるしな」
言葉とともにシールドの出力を最大まで上げる。
そんな彼を、あの日と同じような光が包み込んだ。
「……ムウ……」
何故、同じ光景をまた見なければいけないのだろう。
マリューは唇をかみしめる。
それでも、自分が目をそらすわけにはいかない。
この席に座っている以上、自分は《マリュー・ラミアス》と言う個人ではなく、アークエンジェルの艦長なのだ。
それはわかっていても、やはり割り切れない。
心の中でそう呟いたときだ。
『おいおい、勝手に殺すなよ』
スピーカーか、彼の声が響いてくる。
「……ムウ……じゃなくて、ノアローク三佐」
どうやら、彼は無事だったらしい。その事実にほっと安堵のため息をつく。例え、彼が自分のことを覚えていなくても、生きていてくれればそれでいい。そう考えるからだ。
『いつも言っているだろう? 俺は不可能を可能にする男だって』
しかし、こう言い返されるとは思わなかった。
「あの……」
まさか、と言う気持ちがわき上がってくる。
『待たせたな、マリュー』
だが、自分をこう呼ぶのは彼しかいない。
「……ムウ……あなたは……」
それ以上、今は口にするべき言葉を見つけられなかった。